深夜の恐怖体験
2009.07.24 *Fri
(私事で恐縮ながら、村暮らしならではの体験だったので書き記すことにしました。)
深夜0時過ぎ。
室内温度は35度。
居間のドアと外に通じる窓を全開にしても、家の中はむわっとした熱気に包まれていました。
日が暮れてから、いつものようにテラスに打ち水をして、玄関は扉上部の鉄格子部分をあけて風が通るようにしていてもえらく暑い夜でした。
夕方水浴びをした体も髪もすでに乾ききり、もう一度水浴びしようかなあと思いながら、そのとき私はタンクトップに短パンというラフな格好でテレビをつけた状態で本を読んでいました。
と、もたれかかっていた背中のクッションのところで、かすかな音がしました。
「またゴキブリか」
最近ゴキブリが多く出てくるようになり、その多くはトイレの排水溝から這い上がってきます。
TVが置いてある我が家の居間はトイレに近く、これまでにも何度かカサカサと入ってくる姿を目撃していました。ゴキブリを発見した場合、サンダルで叩いたり、デッキブラシでひたすら突いたり、すでに何度もやっていることなので慣れっこになっています。緊急事態に備え、デッキブラシなどの撃退用必須アイテムも手近においてありました。
反射的に腰を浮かせて肩越しにクッションを見やると、そこにいたのは果たしてゴキブリではありませんでした。
一瞬でクッションとクッションの間に隠れてしまいましたが、私は紛れもなく見てしまいました。
それは黒くて、くすんだ色をした中型サイズのサソリだったのです。
あまりのショックに一瞬めまいを覚えました。
------------------------
この家に住んで最初にサソリを見にしたのは1年前の夏のことです。
テラスの椅子の上に干しておいたリュックサックを取り込もうとして逆さに持ち上げたとき、開けてあった小さなファスナー付ポケットから黒くて小さい物がぽとりと落ちました。
なりは小さいながらも、それが本やテレビで見たことのあるサソリの実物でした。
毒針のついている尻尾を高く振り上げた姿があまりにも立体的にリアルで、どうやって殺したらいいのか分からずに気が動転するばかり。
その時はちょうど、近所の肝っ玉母さん、ファテマがうちの前で立ち話をしていたので、急いで呼びに行きました。なんとかしてくれと頼むと、彼女は手近にあった石を拾い、何事もなさげにサソリをつぶして殺しました。
それ以来、うちで出没する事はなく、ご近所の家畜小屋に出たとか、穀物部屋にいた、とかいう話だけを聞くにとどまっていました。
------------------------
しかし、今回サソリが現れたのはうちの中。そして間の悪いことに深夜。
それもよりによって、熱帯夜が続く夏になってからずっと、ベッドとして使っていたソファの上なのです。
暑さも忘れ、動揺した頭の中にあるのはどうやって退治したらいいのかということ、それだけでいっぱいでした。
しかし、どう考えても一人では対処できないと判断。
「これは、、、もう助っ人を呼ぶしかない。」
頼みの綱は、うちの一部を間借りしているハッサン一家です。
通路のドア1枚隔てた向こうの大きなサロンでは、ハッサンとセディアの夫婦と5人の子ども達が暮らしています。モロッコ人には珍しく、夜9時前には夕食を済ませてみんな寝てしまいます。
眠っているところを起こしてしまうが、やむをえません。
通路ドアの鍵をあけて家族の寝ているところに飛び込みました。
「セディヤ、セディヤ、ティガルダムト(サソリよー)」
ベルベル語でサソリ(ティガルダムト)という単語と、ねずみ(タガルダイト)がごっちゃになってしまい、混乱した頭ではどっちがどっちだったか区別がつかなくなっています。なんとか分かってもらおうと、両手でハサミを切る真似をしてみました。
幼い子ども達と川の字になって横になっていたウィノナ・ライダー似のセディア、5児の母と言えど明らかに私よりも年下です。以前聞いたときは確か30歳くらいだったと思います。いつものように口元に微笑を浮かべて、むくっと起きてくれました。
急いで居間に案内し、サソリが隠れたクッションをそっとめくってみました。
やっぱりいました。
大きさは手のひらくらい。頭から尻尾まで10cmくらいでしょうか。
緑色のソファカバーの上で、目立たないようにじっとしています。
「タマゴルト(カマ)をもってらっしゃい」
大して驚く様子もなく、セディアは私が草刈りに使う、先端が湾曲したカマを持ってこいと言います。
倉庫に行って、黒いビニール袋にいれてあったカマを取り出しました。と、ビニールの破片がひらっと落ちたのをゴキブリかと思い、一瞬ビビって飛び上がってしまいました。もうこうなるとすべてが恐怖の連続です。
セディアはデッキブラシの柄の部分と、カマを器用に使ってサソリを取り押さえ、家の外に持って出ました。
うまく捕まえているのか、サソリはじっとして動く気配はありません。
玄関先のコンクリートの上で尻尾を胴体から切り離すように、カマですりつぶしていきます。
「もう大丈夫、あとはアリが始末するから」
瀕死の状態になれば後は自然に任せるというのでしょうか。確かに、これまで退治して庭にほおっておいたゴキブリもそうであるように、明日の朝になればアリが見つけて連れ去ってくれるか、わずかな残骸しか残されていないはずです。
セディアは躊躇する間もなくサソリを捕まえて退治し、あっという間に寝に戻っていきました。
さすが母は強し、そして村暮らしが長いだけあります。ゴキブリやサソリを見たくらいでは驚きもしない。
私もサソリぐらいでおじけづくようではまだまだ人間が未熟だなあと実感したのでありました。
しかしその夜、すでに退治されたとはいえ、サソリがいたソファで寝るのは大いにためらわれました。
この体験を通して、村人の生活の知恵に改めて思い当たったのです。
村の女性達は、毎日のようにうちの中を念入りに掃除します。ちゃぶ台もTVセットも簡単に移動できるようになっていて、家中に水をまいて水きりブラシで床の汚れをかき出します。寝室のベッドの下にも、通常なにも置かないし、装飾類も最小限でおおむねがらんとしてます。台所も調理するとき以外は鍋、やかん、コップ、食材に至るまで全部戸棚にしまって、キッチン台の上は何も置きません。衣類などは洋服ダンスではなく、鍵のかかる旅行カバンに入れて部屋の隅に積み上げ、毎回出し入れしているところも多くみられます。
これには掃除をしやすくするという目的もあるでしょうがが、サソリのような害虫が紛れ込まないようにするためではないかと思います。漂白剤をばんばん使って床を清潔にしておくのは、害虫を寄せ付けないため、また余計なものを出しっぱなしにしないのは、害虫が入ってきても分かりやすいようにする為とも思われます。
村人が言うところによると、万が一、サソリに刺されても死なないということです。
しかし、すぐに病院に行って注射を打ってもらわなくてはなりません。
※注: 注射を打ってもらうのか、刺された箇所の針を正しく摘出してもらうのか、このへんはベルベル語がうまく理解できずに曖昧です。
もし、サソリが動く音に気づかずにそのまま電気を消してソファに横になっていたら、そう思うとゾッとします。サソリに刺されたらそれこそパニックだろうし、村から病院までは歩いて1時間、しかも途中の畑道には夜になると野犬が沢山いて、絶対に歩いてはいけないと言われています。近所に車を持っている人は極わずかで、そんな人たちまで巻き込んで病院に行くはめになっていたら、もう村での生活がつらくなりそうです。
しかし分からないのは今回のサソリの侵入経路です。窓か、ドアの下の隙間か、はたまたトイレの排水溝からなのか。サソリは壁を登れるときいたことがあるので、いつも開け放し状態にしている窓から入ってきたのかもしれません。また、サソリは水気のあるところを好むということでしたが、それならなぜ居間に現われたのでしょうか。サソリの生態をよく知らないので、もっと村人から情報を収集しておこうと思いつつ、今後の教訓としてここで学んだことををあげてみます。
〇窓に網戸をつける
〇ドアの下の隙間にしっかり詰め物をする
〇トイレの穴を完璧に塞げる大きさのペットボトルに代える
〇家の中は頻繁に掃除し、整然とさせておくこと
〇ものは並べておくのではなく、しまう
〇靴や服は身につける前に振ってみる
〇リュックやバッグも、使わないときはファスナーをきっちり締めておく
〇夜間、別の部屋にちょっと物を取りに行くときにでも、おっくうがらずに電気をつける
〇何かあったときに頼れる近所の車・バイク持ちの男性と仲良くしておく
砂漠気候のこの村は夏は灼熱、冬は極寒の生活。
これまで冬の寒さよりも夏の暑さほうがまだ我慢が出来る、とみんなに吹聴してきたけれど、
サソリに脅かされる事がない分、やっぱり冬のほうがいいかも・・といまは思います。
深夜0時過ぎ。
室内温度は35度。
居間のドアと外に通じる窓を全開にしても、家の中はむわっとした熱気に包まれていました。
日が暮れてから、いつものようにテラスに打ち水をして、玄関は扉上部の鉄格子部分をあけて風が通るようにしていてもえらく暑い夜でした。
夕方水浴びをした体も髪もすでに乾ききり、もう一度水浴びしようかなあと思いながら、そのとき私はタンクトップに短パンというラフな格好でテレビをつけた状態で本を読んでいました。
と、もたれかかっていた背中のクッションのところで、かすかな音がしました。
「またゴキブリか」
最近ゴキブリが多く出てくるようになり、その多くはトイレの排水溝から這い上がってきます。
TVが置いてある我が家の居間はトイレに近く、これまでにも何度かカサカサと入ってくる姿を目撃していました。ゴキブリを発見した場合、サンダルで叩いたり、デッキブラシでひたすら突いたり、すでに何度もやっていることなので慣れっこになっています。緊急事態に備え、デッキブラシなどの撃退用必須アイテムも手近においてありました。
反射的に腰を浮かせて肩越しにクッションを見やると、そこにいたのは果たしてゴキブリではありませんでした。
一瞬でクッションとクッションの間に隠れてしまいましたが、私は紛れもなく見てしまいました。
それは黒くて、くすんだ色をした中型サイズのサソリだったのです。
あまりのショックに一瞬めまいを覚えました。
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この家に住んで最初にサソリを見にしたのは1年前の夏のことです。
テラスの椅子の上に干しておいたリュックサックを取り込もうとして逆さに持ち上げたとき、開けてあった小さなファスナー付ポケットから黒くて小さい物がぽとりと落ちました。
なりは小さいながらも、それが本やテレビで見たことのあるサソリの実物でした。
毒針のついている尻尾を高く振り上げた姿があまりにも立体的にリアルで、どうやって殺したらいいのか分からずに気が動転するばかり。
その時はちょうど、近所の肝っ玉母さん、ファテマがうちの前で立ち話をしていたので、急いで呼びに行きました。なんとかしてくれと頼むと、彼女は手近にあった石を拾い、何事もなさげにサソリをつぶして殺しました。
それ以来、うちで出没する事はなく、ご近所の家畜小屋に出たとか、穀物部屋にいた、とかいう話だけを聞くにとどまっていました。
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しかし、今回サソリが現れたのはうちの中。そして間の悪いことに深夜。
それもよりによって、熱帯夜が続く夏になってからずっと、ベッドとして使っていたソファの上なのです。
暑さも忘れ、動揺した頭の中にあるのはどうやって退治したらいいのかということ、それだけでいっぱいでした。
しかし、どう考えても一人では対処できないと判断。
「これは、、、もう助っ人を呼ぶしかない。」
頼みの綱は、うちの一部を間借りしているハッサン一家です。
通路のドア1枚隔てた向こうの大きなサロンでは、ハッサンとセディアの夫婦と5人の子ども達が暮らしています。モロッコ人には珍しく、夜9時前には夕食を済ませてみんな寝てしまいます。
眠っているところを起こしてしまうが、やむをえません。
通路ドアの鍵をあけて家族の寝ているところに飛び込みました。
「セディヤ、セディヤ、ティガルダムト(サソリよー)」
ベルベル語でサソリ(ティガルダムト)という単語と、ねずみ(タガルダイト)がごっちゃになってしまい、混乱した頭ではどっちがどっちだったか区別がつかなくなっています。なんとか分かってもらおうと、両手でハサミを切る真似をしてみました。
幼い子ども達と川の字になって横になっていたウィノナ・ライダー似のセディア、5児の母と言えど明らかに私よりも年下です。以前聞いたときは確か30歳くらいだったと思います。いつものように口元に微笑を浮かべて、むくっと起きてくれました。
急いで居間に案内し、サソリが隠れたクッションをそっとめくってみました。
やっぱりいました。
大きさは手のひらくらい。頭から尻尾まで10cmくらいでしょうか。
緑色のソファカバーの上で、目立たないようにじっとしています。
「タマゴルト(カマ)をもってらっしゃい」
大して驚く様子もなく、セディアは私が草刈りに使う、先端が湾曲したカマを持ってこいと言います。
倉庫に行って、黒いビニール袋にいれてあったカマを取り出しました。と、ビニールの破片がひらっと落ちたのをゴキブリかと思い、一瞬ビビって飛び上がってしまいました。もうこうなるとすべてが恐怖の連続です。
セディアはデッキブラシの柄の部分と、カマを器用に使ってサソリを取り押さえ、家の外に持って出ました。
うまく捕まえているのか、サソリはじっとして動く気配はありません。
玄関先のコンクリートの上で尻尾を胴体から切り離すように、カマですりつぶしていきます。
「もう大丈夫、あとはアリが始末するから」
瀕死の状態になれば後は自然に任せるというのでしょうか。確かに、これまで退治して庭にほおっておいたゴキブリもそうであるように、明日の朝になればアリが見つけて連れ去ってくれるか、わずかな残骸しか残されていないはずです。
セディアは躊躇する間もなくサソリを捕まえて退治し、あっという間に寝に戻っていきました。
さすが母は強し、そして村暮らしが長いだけあります。ゴキブリやサソリを見たくらいでは驚きもしない。
私もサソリぐらいでおじけづくようではまだまだ人間が未熟だなあと実感したのでありました。
しかしその夜、すでに退治されたとはいえ、サソリがいたソファで寝るのは大いにためらわれました。
この体験を通して、村人の生活の知恵に改めて思い当たったのです。
村の女性達は、毎日のようにうちの中を念入りに掃除します。ちゃぶ台もTVセットも簡単に移動できるようになっていて、家中に水をまいて水きりブラシで床の汚れをかき出します。寝室のベッドの下にも、通常なにも置かないし、装飾類も最小限でおおむねがらんとしてます。台所も調理するとき以外は鍋、やかん、コップ、食材に至るまで全部戸棚にしまって、キッチン台の上は何も置きません。衣類などは洋服ダンスではなく、鍵のかかる旅行カバンに入れて部屋の隅に積み上げ、毎回出し入れしているところも多くみられます。
これには掃除をしやすくするという目的もあるでしょうがが、サソリのような害虫が紛れ込まないようにするためではないかと思います。漂白剤をばんばん使って床を清潔にしておくのは、害虫を寄せ付けないため、また余計なものを出しっぱなしにしないのは、害虫が入ってきても分かりやすいようにする為とも思われます。
村人が言うところによると、万が一、サソリに刺されても死なないということです。
しかし、すぐに病院に行って注射を打ってもらわなくてはなりません。
※注: 注射を打ってもらうのか、刺された箇所の針を正しく摘出してもらうのか、このへんはベルベル語がうまく理解できずに曖昧です。
もし、サソリが動く音に気づかずにそのまま電気を消してソファに横になっていたら、そう思うとゾッとします。サソリに刺されたらそれこそパニックだろうし、村から病院までは歩いて1時間、しかも途中の畑道には夜になると野犬が沢山いて、絶対に歩いてはいけないと言われています。近所に車を持っている人は極わずかで、そんな人たちまで巻き込んで病院に行くはめになっていたら、もう村での生活がつらくなりそうです。
しかし分からないのは今回のサソリの侵入経路です。窓か、ドアの下の隙間か、はたまたトイレの排水溝からなのか。サソリは壁を登れるときいたことがあるので、いつも開け放し状態にしている窓から入ってきたのかもしれません。また、サソリは水気のあるところを好むということでしたが、それならなぜ居間に現われたのでしょうか。サソリの生態をよく知らないので、もっと村人から情報を収集しておこうと思いつつ、今後の教訓としてここで学んだことををあげてみます。
〇窓に網戸をつける
〇ドアの下の隙間にしっかり詰め物をする
〇トイレの穴を完璧に塞げる大きさのペットボトルに代える
〇家の中は頻繁に掃除し、整然とさせておくこと
〇ものは並べておくのではなく、しまう
〇靴や服は身につける前に振ってみる
〇リュックやバッグも、使わないときはファスナーをきっちり締めておく
〇夜間、別の部屋にちょっと物を取りに行くときにでも、おっくうがらずに電気をつける
〇何かあったときに頼れる近所の車・バイク持ちの男性と仲良くしておく
砂漠気候のこの村は夏は灼熱、冬は極寒の生活。
これまで冬の寒さよりも夏の暑さほうがまだ我慢が出来る、とみんなに吹聴してきたけれど、
サソリに脅かされる事がない分、やっぱり冬のほうがいいかも・・といまは思います。
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